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人工透析専門クリニック

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健忘の眼1ページ目

健忘の眼のタイトル

  本日もたくさんのお越し、誠にありがとうございます。若者の落語離れが言われておりますが、本日お越しのお客様を見回しますと、恐らく平均年齢は30そこそこではないかと思います。皆様が足を運んでいただくことが、我々のお米、おまんまの元になりますので、これからも元気で長生きをして、末永く足を運んでいただけることを願っております。今後ともよろしくお願い申し上げます。

  さて、明治の初めのころというのは、平均寿命が40そこそこでして、その頃は今で言う認知症という病気はなかったわけでして、「ぼけ」とか「健忘」と言われていたようです。昨今は、長生きする方が多くなりまして、認知症が社会問題になってきています。あるお医者さんから聞いたお話ですが、これは、「神様・仏様からの贈り物」だそうです。長生きをしたご褒美に、老いること、死ぬことの恐怖から解放されて、穏やかに過ごせるようにという配慮だそうでして、記憶力がなくなっても、穏やかに過ごすための心、感情だけは衰えず残っているそうです。ですから、身近に認知症の方がいらっしゃっても、「何言ってんの。さっきご飯食べたでしょ。」というような強い口調で怒って話すと、怒られたという悲しい辛い感情だけが残ってしまいます。そういった方には、できるだけ優しく穏やかに話をしてあげることが、お互いの、そして家族の安泰の秘訣だそうです。

  これは、明治の初めのころの大阪の、米問屋から米を卸して、各家に配達をするという店を一代で築いた、立派な米屋さんの話でして。旦那さんは、手伝いを一人雇って、二人で毎日毎日米を引いて走り回っています。奥さんはというと、これまたしっかり者で、注文の整理、問屋への発注、伝票作り、集金といった裏方の仕事を一人で仕切っておりました。ほとんど家族だけで賄って働いておりましたが、そこに、仕事もせずに毎日好きなことばっかりして過ごしている徳之助という一人息子がおりました。

「ちょっとお邪魔致します。」
「これはこれは、甚兵衛さん。米は昨日お届けしたはずですが、何か間違いでもありましたか?」
いやいや、そうではないんじゃが。徳之助さんはいてはりますか?」
「徳之助が何か粗相でも?」
「いや、夕べ・・いやいや、ご在宅ならそれでよろしいのじゃが。」
「これはこれは、甚兵衛さん。米は昨日お届けしたはずですが、何か間違いでもありましたか?」
「まあ、お恥ずかしながら、実は、徳之助は昨夜は帰ってこず、先ほど戻って、奥で寝ています。もういい年になったのだから、少しは手伝うように言ってはおるのですが、のれんに腕押し、のらりくらりとかわされて本当に困っております。小さい時分から、かわいがってくれている甚兵衛さんの言うことなら少しは聞いてくれるかもしれません。」
「そうですか。私の言うことなど、聞いてくれるかどうかわかりませんが、少し意見をしてみましょうかな。」
甚兵衛さんが奥の間に行きまして。
「徳さん、おはよう。早よ起きなはれ。もうお天道様は高う昇ってるがな。」
「なんや、甚兵衛さんやないか。今寝たところやねん。もうちょっと寝かせてえな。」
「ほんま、どうしようもない奴やな。夕べお茶屋の前でお前さんを見かけた人がおって、わしに知らせてくれたんじゃ。昨夜はどこで泊ったんや。働かんばかりか、夜泊まり日泊まりするやなんて、お前のお母上はどれほど心配しておるか。」
「夜泊まりはしても、日泊まりはしてまへん。毎日毎日説教されて、耳がタコになってますんや。もうおかんの話はせんといて。」
「お母上をおかんというやつがあるか。働かんでどうやってお米をいただくんや?」
「米ならそこにぎょうさんある。」
「ほんにそうや。そやない。とにかく、茶屋遊びは止めて、お父上の手伝いをせなあかんで。お父上に何かあった時は、お前さんが旦那になるのやで。」
甚兵衛さんの意見もどこ吹く風。お茶屋遊びというのは楽しいそうですな。綺麗どころを隣において、おいしいものを食べ、おいしいお酒が入って、朝まで添い寝やなんて、私も死ぬまでにいっぺんやってみたいもんですな。徳之助、そうなると、親や周りの意見にさらに反発するようになり、夜泊まり日泊まりがエスカレートしてきます。お茶屋の勘定もどんどん増えていきますな。旦那はというと、息子かわいさ、一所懸命にさらに輪をかけて働くようになります。その心労、疲労が祟ったのか、ある日ぽっくりと死んでしまいました。
「徳さん、いてるか?」
「ああ甚兵衛さんか。」
「最近はどうや?大分とこたえてるみたいやな。」
「「最近はどうや?」って、米屋をたたんでからは、どこのお茶屋も入れてくれませんのや。」
「当たり前やないか。ああいうところは、お金払ってもらえる担保があってなんぼやねん。そんなことは聞いてない。お母上のお加減はどうなんじゃ。」
「それが、このところ家で「じっと」というか「ぼー」としていますんや。こないだも、朝餉の魚買うてくる言うて出て行って、帰ってきたのは夜よっぽど遅くなってからで、米を買うてきてましたんや。米ならまだそこにぎょうさんあるんやけど。」
「そうか、お父上がお亡くなりになったのが、よっぽどこたえたんやろな。徳さん、お前さんがしっかりしてなかったさかいやで。これからは、しっかり働いて、今までの親不孝の分、お母上を大切にせんなあきませんで。ところでやな、米屋の整理をお母上から頼まれておったんじゃ。ここに千円ある。これは、お前のお父上とお母上が一所懸命働いて残したお金じゃ。お前さんが好きに使うてもええけど、大事にせなあかんで。それと、お母上を医者にも診せてあげや。隣町に、赤壁周庵先生という立派な医者がいてますんや。手紙書くさかい。明日にでも、連れて行ったげてや。」
「赤壁先生。おかんはどうですか?」
「健忘症という病じゃ。この病は治りはせん。頭が、辛いことを忘れて、穏やかになろうとしておるのじゃ。薬もありゃせん。優しく傍におってあげることじゃ。」
「そしたら、少しはようなりますか?」
「かもしれん。つい今しがたのことは、にわかに忘れる。物を盗まれたと騒いだり、人に見えんもんが見えたり、世話が焼けるようになるが、決して叱ってはいけませんぞ。」
それからというもの、徳さんは、毎日母上の世話をしながら過ごしています。「着かず離れず」「いい塩梅の距離感」というのがありますが、近過ぎるとかえってよくないこともあるようで。そうなると、家ではけんかが絶えんようになります。
「いつになったら、朝餉をいただけるんですか?」
「いつになったらって、朝餉は朝食べたやないか。昼も食べて、さっき夕餉食べたんとちゃうか。」
「私は、朝も昼も夜も食事はいただいておりません。」
「わかったわかった。そしたら、ちょっとだけ作るわな。はい、作ったから、さっと食べて、早よ寝なあかんで。どうしたんや、食べへんのかいな。」
「そこにお父上がいます、先にお父上が食事をしますので。私は、奥で休みます。」
「誰もいてへんやんやないか。せっかく作ったのに。もう、明日から食べさせへんで。」
あくる朝。
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