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人工透析専門クリニック

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健忘の眼2ページ目

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「おかんの好きな大根の味噌汁作ったで。早よ起きておいでや。」
「あちゃちゃちゃちゃちゃちゃ。あー。私を殺めようとしてるんか。」
「何言うてんねん。いつもふーふーして汁飲んでたんやんか。代わりに、ふーふーしたげるさかい、貸してみ。」
「私の汁、盗まれた。あんたは誰や。仏壇のお金をくすめたのもあんたと違うか?」
「誰がそんなことするかい。これだけ世話してやってんのに、盗人扱いしよって。今度言うたら、承知せんで。」
徳さんも、さすがに毎日こんな日が続くと、疲れてきまして、仏壇にあったお金から三百円を残して、懐へ入れ、ぽいっと家を飛び出します。
「ごめんよ。」
「これは徳さん。ご無沙汰しております。お父上が亡くなられて、商売も止めはったそうやないの。それで、今日は何の用ですか。」
「いやいや、前みたいに、ちょっと遊ばせてもろてええか。」
「ええか言われても、持つもん持ってますんか。」
「持つもんって。金ならここにあるがな。」
「それならよろしいけど。ほな、ゆっくりと遊んでやって下さい。」
「あーあー、もう何日になるかな。おかん、生きてるやろか。大分とお金、使いこんでしもうたからな。どんな顔して帰ったらええやろか。おかんのことも心配やけど、懐も心配になってきたな。」
「女将。じゃましに来たで。」
「まー、八五郎さん。しばらくぶりで。今日はえらい景気よさそうな顔してますな。なんぞ、ええ事でもありましたんか。」
「顔見てわかるか。いつも、「あごの外れた豚や」言うてるやないか。」
「どんな顔やの。そんなこと言うたことありません。」
「隠さんでええ。おなごしが裏で言うてんの知ってるわ。それよりな。これや。」
「これって?」
「サイやがな。丁半で大勝ちや。三十円あるさかい、これで十日ほど遊ばせてもらうで。」
「さ、三十円。丁半って、博打やないか。そや、ここで居っても、金は減るだけやな。博打やったら、勝つこともあるかもしれんな。」
「徳さん、もう止めたらどうや。ぶさいくなほど、裏目裏目にはりよったな。まあ、こんな日もあるけどな。すっからかんになって、借りも大分とたまってるで。そろそろ返してもらわんと。徳さん、あんたとこ、昔、米屋で、えらい流行ってたそうやな。さっき、まだ金も米もぎょうさん残ってる言うてたな。明日、耳そろえて返してもらいに行くで。返さんかったら、承知せえへんで。」
「おかん、帰ったで。あーまだ、生きとったわ。けど、相変わらずぼーとしとるな。実は、おかんがあんなになってしもうて、辛なって、お茶屋へ行ったんや。ほんに楽しませてもろうて、何日いたかな。お金も心細くなって、それでな、取り返そう思て、博打したんや。博打ちゅうもんは、しょせん勝たれへんもんなんやな。それでな、お茶屋のつけと博打の借りで、ぎょうさん借金ができてしもうたんや。仏壇のお金使うたら、家には何にもなくなるさかい、これ床下に隠しとくからな。明日、借金取りが来るけど、絶対に渡したらあかんで。どこぞに逃げとくさかい。」
徳さんが出て行ったあと、何を思ったのか、母上は、その床下からお金を取り出し、井戸端へ歩いて行き、そのまま井戸の中に「どぼん」。何事もなかった様子で、家に戻ります。
翌朝。
(どんどんどんどん。)
「徳さん。いてるか?金返してもらいに来たで。金は家にある、言うとったやろ。徳さん、徳、おらへんのか。徳。徳の奴、逃げよったな。こないなったら、家にあるもんもろて帰るで。おい、なんか金目のもん探せ。」
「あにき。なんもない家やな。あるのはお婆だけや。これもろて帰ろか。」
「あほなこと言うな。こんなお婆もろて帰ってどうすんねや。」
「あにき、「一人身で、おなごが欲しい」言うてたやないか。」
「こんなお婆はいらんわ。」
「そやかて、どことのう品かあって、綺麗やで。昔はさぞ美人やったんやろな。若い美人が3人おると思え。」
「思えるか。もっと探せ。天井裏でも、床下でもどこぞに何ぞ隠してるかもしれん。」
「あにき。これどうや。」
「なんやそれ。」
「なんやわからんけんど、丸い桶みたいで、なんや取っ手みたいなんがついとるで。」
「それは、お婆のおまるや。ほんに何も無いな。しゃーない、こんなところで油売っとても金にはならん。帰ろか。」
「油売ったら、金になる。」
「あほなこと言わんと、早よついてこい。」
「おかん、帰ったで。3年ぶりやな。元気にしとったか。言うても、まだ、ぼーとしとるわ。健忘っちゅうのは治らん病やと医者も言うとったなー。まあええわ。わからんでも、おかん、聞いてや。3年前、借金取りに追われて、実は、京に逃げて行ったんや。茶屋のつけや博打の借りで〆て百円の借金があったんや。死んだおとんが残してくれた金も大分と使いこんでしもうたな。一銭の金もなく、ひもじい思いをしてた時、清水近くの米屋の前を通りかかって、おとんもこんな仕事しとったんやなー。思てたら、店の番頭さんが出てきはって、「大阪の徳之助さんと違いますか?」と声かけてくれましたんや。おとんが死んでからも、わてらのことを案じてくれるお人がていましたんやな。おとんの仕事は、京にまで知れてたんやなー。「どうされました?」と聞かれましたので、恥ずかしながら、これこれこういう訳でと正直に話しましたところ、親切にも、仕事の世話をしてくれました。最初は、米運ぶのがこんなにしんどいとは思わんかった。けどなー。仕事するうちに、だんだん楽しゅうなって、だんだんおとん、おかんが恋しゅうなって、自分の今までが恥ずかしゅうなって、それで、朝から晩まで一所懸命働いたんや。3年かかったけど、やっと百円返せるようになって、帰ってきたんや。ここへ来る途中、全部返したから、今は一文無しやけどな。」
と言うと、徳之助、そわそわしながら、床の板を持ち上げ。
「金がない。おかん、金、持っていかれたんか?」
「徳之助、そなたは母が何もわかっていないと思っておったのか。そりゃーこの年まで生きていると、いろんなことを忘れることもある。しかしなー徳之助、いろんなことを忘れても、覚えられんでも、そなたを思う心だけはしっかりと生きておるのや。心の眼でそなたをずっと見ていたのじゃ。いつやったか、そなたが借金取りに追われて帰ってきた時のことや、仏壇からお金を取り出して、床を上げて、ぽいっと放り投げて、出ていきよったな。その時、私は、情けのおて情けのおて、心の眼から涙が止まらんかった。けど、そのお金には手を付けんかったこと。そなたには、まだまだ改心する心があったんやと。嬉しかった。心で手を合わせ、改心することをずっとずっと信じて祈っておった。それで今日のことや。「おかん、帰ったで」、そなたの声を聞いたときから、嬉しゅうて嬉しゅうて、心では涙が、枯れることなく、今も流れておるのじゃ。子供を思う母の心は、どんなに健忘になっても、生きておるのじゃ。」
「そうやったんか。おかん、いや、母上様。」
「徳之助。お金のことか。床の下は用心が悪いと思うて、見つからんところへしまっておる。あれから直ぐに借金取りがやってきて、家じゅう、天井の裏から、床の下まで探しよったが、よう探しきらんかった。」
「すまん。すまなんだ。許してや。もう健忘になってしもうて、何を言うてもわからんから思うて、ひどい事言うたなー。辛い思いさせとったんやなー。すまん、許してな。母上、私もやっと目が覚めたんや。これからも今以上に一所懸命働いて、ずっと二人で幸せに暮らしていこな。もう茶屋遊びも博打もすることはない。約束するで。それで、あの三百円で商売でも始めようと思うんや。父上と同じようにできるかわからんけど、一所懸命働くで。母上、あの三百円はいったいどこにおいてるんや。」
するとおかんは息子をじぃーと見つめて、
「見たことのない顔やけど、あんたは誰や?」
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